まずこの記事ですが、決して京急側の責任およびトラック運転手の責任を追及する
ものではなく、あくまで非常時の対応の大半を手動で行うことについて問題点を
指摘するものです。

件の事故で直接被害を被った方に対してお見舞い申し上げるとともに、
死亡されたトラック運転手に対してお悔やみ申し上げます。

負傷された方々の1日でも早い回復を祈念いたします。



2008 0903-1京急黄金町(1)17
*事故当該に類似した車両で代替

今回の事故は、青砥→三崎口へ向かう快特が、神奈川新町通過直後、横浜側にある
踏切で立ち往生していた大型トラックと衝突し、横浜方先頭から3両目までが脱線、
先頭車両が45度に傾斜したものです。

大型トラックは近隣の国道15号を、新町から横浜側に1駅行った仲木戸付近で離脱して北上?、
仲木戸から新町まで側道(狭路)を走行。件の踏切が通る道路との交差点で左折しようと
10~20分程度切り返したのち断念して踏切方向に右折。

そのあと何らかの原因で踏切内において立ち往生。非常停止ボタンが押され、
快特にも伝達され非常ブレーキを投入しましたが、間に合わず衝突しました。

これによりトラックが炎上。1両目の第3ドア付近を中心に
ステンレス車体の一部が焼けました。

幸いにも乗務員室が圧縮されるといった状況は発生せず、列車の乗務員、
乗客、周囲の住民に死者は発生しませんでした。

ステンレス車体ではありますが先頭車を電動車としていたこと、
運転台付近の車体強度をあらかじめ強くしていたこと、
衝突速度も非常ブレーキの投入によってある程度遅くなっていたこと、
さらに新町の西側に防護壁が設けられていることで脱線した車両、衝突されたトラック
双方が公道に出ることが無かったことが複合して、被害の拡大を防いだのが大きいです。


さてここでグーグルマップや京急本線前面展望等で位置関係を整理しておきましょう。
神奈川新町から品川方に1駅行ったところに子安があります。
子安から新町間にはカーブが存在し、新町手前まで続きます。
*子安~新町間はおよそ700m。

子安の出発信号機を抜けた後、次の閉塞信号はカーブを抜けた直後にあります。
しかも子安も待避線構造となっていること、架線柱が入り組んでいること、

IMG_4152


何より運転台が左側についていること、信号設備も線路の左脇に
設けられていることもあり、twitterでも指摘されている方がいましたが、
カーブを抜ける直前まで信号が見えにくい状況となっています。
*少なくとも450m程手前からでないと明確に視認するのは困難か?
となると非常ブレーキを投入しても回避するのはほぼ不可能?
**このあたりは物理専攻の方に試算していただければと思います。



IMG_0494

運転士に踏切の状況をいち早く知らせる特殊発光信号機、所謂特発というものも
存在します。この画像では左側、白色電光が縦2つに光っているのがそれです。

異常発生時には赤色灯が発光します。

京急ではこの赤色灯が出た時点で運転士自ら非常制動措置を
取る必要があります。自動ブレーキ機能が備わっていないためです。
*これとは別にATS由来の非常ブレーキが存在するが、踏切に対しては
連動していなかったとのこと。


しかも当該区間は路線最高速度120㎞/h前後で走行するということもあり、
恐らく特発を視認した時点で非常ブレーキをかけても、衝突時の
被害をある程度軽減するに留まったのかと思われます。


なお、自動ブレーキの採用をしていない理由として、京急本社は
「橋梁・火災現場付近での緊急停車は逆に危険である」ことを理由に
挙げています。

これに関しては確かにその通りです。地震・水害発生時に橋梁上にとどめるのは
非常に危険です。また、火災現場付近の停車は、小田急や国鉄が以前示したように、
被害がより拡大する可能性を秘めています。これに対して直接何か言うことは
避けたいと思います。


また、京急では川崎より西側はまだ地上区間も多く、踏切の数も多いです。
しかも神奈川新町の場合、新町車庫があることから簡単に立体交差化に踏み切ることも
難しくなっています。


IMG_6451

そこで提案したいのが、阪急電鉄がやっているような保安装置です。
とはいってもC-ATSを導入している京急に阪急型ATSを入れろというのではなく、
踏切上の障害物を検知した時に限って阪急と同じような動作を行うというものです。


IMG_9013


というのも、阪急では障害物を検知、恐らく非常停止ボタンも絡んでいるのでしょうが、
特発が出ると信号照査が減速を指示し(注意信号か停止信号かは分かりませんが、強制的に
信号が切り替わります)、自動的に指定された速度までブレーキがかかります。
*このために2300・3000・3100・3300・5000・5100は非常ブレーキに限り
電気指令式化改造した位。


結果論でものを言うのは批判の的になるかもしれませんが、
少なくとも神奈川新町の障検が作動した時点で非常ブレーキがかかる仕組みになっていれば、
恐らくあそこまでの大惨事はもしかしたら防がれたのではないかと推測します。


2008 0903-1京急黄金町(1)25


ただでさえJRと競合区間にある京浜間において住宅地の合間を縫うように120㎞/h運転を
常時実施する京急。

蒲田など、川崎よりも東側では高架化が進んでいますが、車庫が併設されているという
特殊な事情もありなかなか高架化の実現が難しい西側。

踏切の数も決して少ないわけではありません。

今後同様の事故をなるべく起こらないようにしようと思うと、
人の手だけでなく、あくまで補助という形であれ自動的に
速度を下げられるように改良することも今後検討材料に
入れても良いのではないかと考えます。


2007 1025-1京急立会川179_1


重ねて言いますが、別に管理人は京急の非常時の対応を手動で行うことは
批判するつもりはありません。非常時にはどうしても機械側には予想できない
動きをとることもあります。

あくまで突発的に発生した非常事態に対する対応について、
まだ改良の余地があるのではないかと指摘したまでです。



ネットやマスメディア界隈では

・120㎞/h運転自体がおかしい
・運転士が新人でまだ未熟だった

などの見当違いともいえる話が沸き上がっていますが、
今回この2つに関しては全く関係ないと考えるのが妥当でしょう。

IMG_4115

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住宅地近辺での高速走行は近鉄でも阪急でも平気で実施しています。

運転士の経験不足についても、子安~新町間の線形の悪さを
鑑みると軽々しく批判できるものではありません。


適当なことを発信して京急を批判する報道が相次いています。
*某鉄道評論家を筆頭に。

今後踏切での異常発生時にどう対処するかについて改良の余地があるのは
ここに書いた通りですが、少なくとも今回の件で京急側を痛烈に非難する理由は
見当たりません。


・運転士は距離の長短こそあれ非常停止措置を取った
・車体を軽量化しているとはいえ、先頭車両を電動車として、
運転台付近の車体強度を確保しておいたことで、乗客乗務員に死者が出なかった


この2点がそれを端的に示しているのもお分かりいただけるかと思います。

唯一、
・トラックの誘導を駅係員が補助していた

ことが気にかかりますが…
これらに関しては事故調査委員会の公式発表を待つほかありませんが、

120㎞/h運転を直接批判するのはもはやお門違いとしか言えず、
呆れて開いた口がふさがりません。

適当なことを言って炎上しないよう、今一度情報倫理を
頭に叩き込まなければならない。そう感じた一件でもありました。


最後までご覧いただきましてありがとうございました。
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